この曲は、Pusha Tが90年代ヒップホップ黄金期へのリスペクトを込めた一曲。
とくに、BiggieやDiddyらが参加した伝説的MV《Craig Mack – “Flava In Ya Ear (Remix)”(1994年)》へのオマージュが強く感じられる。
ビートの雰囲気も、リリックの言い回しも、まさに**“クラック時代の闇と栄光”を現代に蘇らせたような世界観**。
ここではそんなリリックの一つひとつを、ストリートの背景ごとまるごと解剖&意訳していきます👇
Yesterday’s price is not today’s price
Like, like, crack-crack, like, like Li-like, crack, crack
Like, like, like, like crack-crack Like, like, like, like crack (crack)
「昨日の値段はもう通用しねぇ!」
パキッと砕ける、まるでガラス細工だ
→ Fat Joeの名言。今の俺は昨日の俺じゃない=値上がりした自分の価値を宣言。
自分は昨日より成長した存在。成功すれば(結果を出した人間には)報酬も上がるのが当たり前
→“crack”は《クラックコカイン》と“割れる音”のダブルミーニング
Imaginary players ain’t been coached right
Master recipes under stove lights
まるでゲームのつもりかよ、コーチも受けてねぇのに。
俺はコンロの灯りの下、黙ってレシピを仕込んできた。
→本物の先輩やストリートの仲間から、命を賭けたビジネスの流儀を叩き込まれたということを暗示してる
→コカインを〈料理〉してクラックにする過程を“レシピ”と呼ぶ定番メタファー)
**stove lights(コンロの灯り)**=ドラッグ製造現場を象徴
The number on this jersey is the quote price
You ordered Diet Coke, that’s a joke, right?
背中の番号、それが俺の言い値。
背番号がそのまま「俺の値段」=実力と商品の価値を象徴してる。さらに、「レシピ(=クラック精製)」との流れから、背番号は闇ビジネスの取引価格の暗喩にもなってる。つまり「俺のブツは桁違いだ」っていう価格=品質の自信表明&煽り。
「ダイエットコーク」だって?――それ冗談?
→“Diet Coke”=《薄められた粗悪コカイン》。”お前本気でやってないだろ”っていうディスと見下し
Everybody get it off the boat, right?
But only I can really have a snow fight
「みんな同じ船から卸してる」んだろ?
→ コカインを中南米や他国から密輸してる状況を示してる。→ 全員同じ“ルート”や“仕入れ先”を使ってるはず、という前提。
でも“雪合戦”を真に制すのは俺だけ
→“snow”=高純度コカイン、dealing を“snow fight”と洒落る)(=つまり 「同じ船から降りたもの」でも、俺の手にかかったら別格になるってこと。
Detroit nigga challenge, what’s your dope like?
If your Benz bigger, step it up to Ghost life
本物のバトルしようぜ。で、お前のブツの質は?
→ これは「デトロイトの本物たちみたいに、お前のラップや”ブツ”(=スキル・中身)はどれほどのもんだ?」って挑発。
背景•デトロイトのラッパーたちは、ハードで鋭いパンチライン、リアルなストリート描写で有名。
ベンツが自慢? 本物はロールスに乗るんだぜ。
→ghost life=(Rolls-Royce Ghost):さらに格上。俺と同じ土俵まで上がってこい
Missy was our only misdemeanor
My tunnel vision’s better under stove lights
俺たちの唯一の罪はMissy Elliottにハマってたことくらいだ。
→ Missy Elliottの別名“Misdemeanor”をもじって、犯罪歴はゼロと自慢。*
コンロの灯りの下でこそ俺の視界は研ぎ澄まされる。
• **stove lights(コンロの灯り)**=ドラッグ製造現場を象徴
• tunnel vision=集中力・一点集中(時に極限状態)
You ordered Diet Coke, that’s a joke, right?
My workers compensated so they don’t strike
(繰り返し)ダイエットコークなんて、冗談だろ?
俺の部下にはきちんと報酬を払ってるからストライキなんて起きない
→ 組織のマネジメントの才覚と絶対的な支配力を誇ってるというアピール
Wish me luck, see green like Don Bishop
The ones you trust don’t change like them chains you tuck
幸運を祈っとけよ、“ドン・ビショップ”のように金を稼ぐぜ
→→ “see green”=金を稼ぐのスラング。
→ Don Bishop(元ピンプで緑のスーツがトレードマーク)を引き合いに出し、金に染まった男の象徴=野心と成功の比喩にしてる。
信じてた奴に裏切られるのは、チェーンを隠すくらい簡単なもんだ
chains you tuck=ネックレスやチェーンを“服の中に隠す”こと。
→ ストリートでチェーンを“tuck in”するのは、盗まれるのを恐れて隠す
• この「さりげなく隠す」行為を、「人が急に裏切ること」と重ねてる。「外では堂々と見せてたのに、急に隠す=態度を変える・裏切る
• つまり:→ “裏切り”や“信頼崩壊”への警戒を皮肉交じりに表現してる
Far as I’m concerned, who’s the best? Me and Yezos
Wash, then dry, so give me all of mine in pesos
ナンバーワンは誰だ? 俺と“イェゾス”
→(Ye+Bezos)だ(Kanye West=“Ye” + Jeff Bezos=“Yezos”=「音楽界とファッションのYe、金とビジネス界のBezos、両方を極めた存在、それが俺だ」っていう最上級のセルフブースト。*
“洗って”乾かす、だから現ナマはペソ建てで寄越せ
→“wash & dry”=マネロン
Add it up (add it up)
Your bitches in them pictures but they laser taggin’ us
足してみろ(数えてみろ)
お前の女たちですら俺たちを意識してる
→ 「写真越しにこっちを狙ってきてる」=「SNS上でこっちに注目してる・気がある」
They mad at us, who wouldn’t be?
We became everything you couldn’t be
嫉んでる? まぁ当然だろ
俺たちはお前が絶対になれなかった存在になった
Everything your mama said you shouldn’t be
The Porsche’s horses revvin’, like, “Look at me”
ママに「なるな」って言われた存在に俺はなってやった
ほら、俺は正解だったろ?
→まさに「世間(ここでのママ)が避けろって言うような道(犯罪、ギャング、派手な金遣い、虚勢、反抗心)を、あえて選んで成功した」という、ラップにめちゃ多い“逆転の美学”の表現→それで金も名声もつかんでるという強烈な皮肉と誇りが込められてる。
→ポルシェ(=高級車)=自分自身の象徴
Saddle up
I’m still pitchin’, baby, batter up
まだ俺は“投げて”るんだよ バッターを立たせろ
→“pitch”で《コカインを売る》《野球の投球》
→ 転じて「まだ現役でヤバいモノ(=ドラッグ、ラップ、影響力)を売り捌いてる」っていうダブルミーニング
Imaginary players ain’t been coached right
Master recipes under stove lights
ままごとプレイヤーどもは、指導すら受けてない。
俺はコンロの灯りの下、黙ってレシピを仕込んできた。
The number on this jersey is the quote price
You ordered Diet Coke, that’s a joke, right?
背番号=俺の値札
「ダイエットコーク」だって?――それ冗談?
自分(=Push T)が出す最高品質の“ヤバいブツ”と、お前らが頼む“ダイエット(薄めた)コーク”との落差をバチバチに皮肉ってる部分。
All you niggas get it off the boat, right?
But only I can really have a snow fight
「みんな同じ船から卸してる」んだろ?
でも本当に勝てるのは俺だけ
→“snow”=高純度コカイン、dealing を“snow fight”と洒落る
Detroit nigga challenge, what’s your dope like?
If your Benz bigger, step it up to Ghost life
本物のバトルしようぜ。でお前のブツの質は?
ベンツが自慢ならロールスへ進化してみろ
The flow’s untouched, the drums is tucked
Drive Cullinan when roads get rough
フロウは完璧、 静かだが準備はできてる
→ **「音(ビート)や暴力(銃)を控えめに隠してる」**という多層的な比喩で、静かな威圧感と余裕のある態度 を表しているライン
カタチが荒れても俺のステータスは崩れない
*“Cullinan”=実際の高級車+自分自身を重ねたメタファー
周囲が混乱しても、自分の価値・威厳・スタイルは崩れない。
Snow’s a must, the nose adjust
Young Gs like we Hov and Puff
粉は必需品 扱う俺の嗅覚も鍛えあげられてる
俺たち若き本物は、(HOV)Jay-Zや(Puff)Diddyみたいに歴史に名を刻む存在になった
Best jewelries and hoes we lust
Chanel trinkets and hoes’ll blush
最高のジュエリーに美女たち、俺たちはそんな贅沢に目がない。
シャネルの小物で女たちはみんな夢中になる
Crush hearts like pretty boys And we drivin’ pretty toys
Extendos will make plenty noise
顔で食ってるような連中みたいに女の心を砕く
そして俺たちは磨き上げた高級車を転がす
銃撃戦の音は派手に鳴る
→ “Extendos” は 拡張マガジン付きの銃のこと。
”make plenty noise’’:実際の銃撃音が激しいことを強調
Crescendo make your car endo
Pierce your car window
音が高まる頃には、お前の車は宙を舞ってる
• Crescendo:音がだんだん大きくなる→緊張感の高まりや銃撃のクライマックス
• car endo:スラングで「銃撃で車が宙に浮く(=ひっくり返る・突っ込む)」
窓をぶち抜いて黙らせる
(→ 銃撃や暴力のリアル描写。比喩でもあり、本気でもある。)
Missy was our only misdemeanor
Nike box hold a hundred thou with no insoles, uh
俺たちの唯一の罪はMissy Elliottにハマってたことくらいだ。
ナイキの箱に10万ドル、インソール抜きでねじ込む
→靴の中敷きを外す=中に現金やドラッグを隠す裏ワザ(めちゃリアルなストリート手法でアンダーグラウンドの文化)
The crack era was such a Black era
How many still standin’ reflectin’ in that mirror?
Lucky me
クラック時代は黒人にとっての“黒歴史”でもあり、“誇り”の時代でもあった
その鏡にまだ映ってるのは、何人残ってる?
生き延びた俺はラッキーだ
• 1980〜90年代アメリカで流行したクラック・コカイン時代を指してる。
“Black era”は二重の意味で:
• 黒人社会に大打撃を与えた暗黒の時代(社会問題)
• 同時に、多くの黒人が生き残りと成功の術を模索した時代っていう誇りも込めてる
Imaginary players ain’t been coached right
Master recipes under stove lights
まるでゲームのつもりかよ、コーチも受けてねぇのに。
俺はコンロの灯りの下、黙ってレシピを仕込んできた。
The number on this jersey is the quote price
You ordered Diet Coke, that’s a joke, right?
背番号=俺の提示価格
「ダイエットコーク」だって?――それ冗談?
All you niggas get it off the boat, right?
But only I can really have a snow fight
「みんな同じ船から卸してる」んだろ?
でも“雪合戦”を真に制すのは俺だけ
Detroit nigga challenge, what’s your dope like?
If your Benz bigger, step it up to Ghost life
本物の勝負しようぜ、でお前のブツの質は?
ベンツが自慢? 本物はロールスに乗るんだぜ。
❤️補足解説
1*• Missy Elliottは90年代後半に**“Missy ‘Misdemeanor’ Elliott”**という名前で活動してた(=公式の別名)。
→“misdemeanor” は「軽犯罪」って意味だけど、ここでは彼女の名前と意味の両方をかけた言葉遊び(ダブルミーニング)。
→「Missy(ミッシー)」と「misdemeanor(軽犯罪)」をかけてることで、「本当に悪いことはしてない。夢中だったのはラップだけ=Missyだけ」っていうクリーンだけど本物志向な自分たちの若さを表現してる。
2*ラップでは “Me and〜” を 「=俺自身」って表す比喩 にすることがある!これはラッパーたちがよく使うテクニックで、
• 「Me and the money」=金と俺 → 本当は「俺が金そのもの」
• 「Me and the game」=ゲームと俺 → 「俺はこのゲームを支配してる」という風に、“Me and 〇〇” = 自分がその存在を象徴する/一体化してるっていう強烈な自己主張をしてる。
めちゃくちゃかっこいい曲ですよね。私もお気に入りの一曲で、聴くと自然と首を振ってしまいます。
実はPusha Tは、“売る側”ではなく“作る側”──つまり**「クラック精製者(クッカー)」としての誇り**を持っているんです。
たとえば彼のリリックには、こんなフレーズが頻出します。
• “I chefed it in the kitchen”(俺がキッチンで“料理”した)
• “Pyrex pot legend”(パイレックス鍋の伝説さ)
• “Master recipes under stove lights”(コンロの下でレシピを極めた)
これらは全て、「俺は下っ端でも客でもない、本物を“作ってた側”だ」という、選ばれた立場としてのプライドを語ってるんです。
だからこそ、「Diet Coke=薄められた粗悪品」を笑い飛ばしながら、「俺の“本物”がどれほどのものか見せてやる」と語る。
それがPusha Tというラッパーの美学――私はそう思っています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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